● JOAO HERMETO / LA ONDE EU MORO
BOLACHA DISCOS / BRA / CD-R /1,000円
ラパ・サンバの中心グループ、チラ・ポエイラのパーカッショニスト、ジョアン・エルメートが"LA ONDE EU MORO"でリリースしたアルバム。先日紹介したナナ・ヴァスやスザーノらによるセメンテイラ、天才パーカッショニスト、ハミロ・ムソット、更にはウアクチやシリといったユニークなパーカッション・ミュージックには事欠かないブラジルにまた一枚面白い個性が加わりました。それにしてもこのボラーシャ・レーベルはCD-Rなのがつくづく残念ですね・・・。
まずはその打ち込みと生楽器を駆使した独特の質感のサウンドに驚くであろう。Ivo Senra(key)、Lúcio Sanfilippo(vo)の的確なサポートを除けば、あとはジョアンのパーカッションとサンプラーによる打ち込みが支配する機械的な世界観。マルコス・スザーノが彼のリーダー作で推し進める「パンディロのグルーヴを核としたダンス・ミュージック」ともまた違う。サンバのパーカッションがもたらすオーガニカルな快感をベースにしたラウンジ・ミュージックとでも形容すればいいのだろうか。深海に迷い込んだかのような感覚を惹起させる独特の距離感のある無機質なサウンドと、ジョアンの生パーカッション。この二点と、豊穣なるブラジル音楽との交点が、単なるラテン・ラウンジ・ミュージックと異なる複雑に折り重なった魅力をみせてくれる。そんな魅力を最大限に感じられるのがシコ・ブアルキの名曲"A Volta Do Malandro"カバーであろう。プリミティブなパーカッションとシコのマントラのような呪術性と多義性を帯びた言葉の妙、そこにサンバのパーカッションが加わり、渾然一体となりながら一つのグルーヴを奏でていく・・・。どこかフリー・ジャズ的な混沌も含みながら解釈されたMPBの名曲にブラジル音楽の新たな地平を見ることが出来る。
● PELICO / QUE ISSO FIQUE ENTRE NOS
YBRAZIL / BRA / CD / 2,300円
サンパウロを中心に続々と面白いSSWが登場してきているので紹介したいと思います。シカゴ・アンダーグラウンドの分派であるサンパウロ・アンダーグラウンドのメンバーも参加。このあたりのシーンも一度現地でどっぷり見てみたいところです。
● V.A. / SEMENTEIRA - SONS DA PERCUSSAO
BALUARTE / BRA / CD / 2,600円(税込)
言わずと知れたブラジリアン・パーカッションの巨人でジスモンチやドン・チェリーなどとのコラボレートでECMに名作を残すビリンバウ/ヴォイス・パフォーマンスの達人、ナナ・ヴァスコンセロス。インド打楽器「タブラ」を得意とするマルチ・パーカッショニストで、オルケストラ・ポプラール・ヂ・カマラをはじめ多くのインスト/セッションで活躍するカイート・マルコンデス。サンパウロの現代音楽フィールドで活躍する若手パーカッション・トリオ、コラサォン・キアルテイラ。ショーロやサンバが基礎にありながら、コンテンポラリー・ジャズ、MPB、クラブ・ミュージックに至るまで幅広い分野で活躍。独自に編み出したパンデイロ奏法でいまやブラジルだけでなく世界的にも大活躍のパーカッショニスト、マルコス・スザーノ。確かな技術と見識を持ちつつも、常に進化し続けるブラジルを代表するパーカッショニスト達によるユニット:プロジェクト、セメンテイラによる2011年初頭にリリースされた作品がこの「ソンス・ダ・ペルクッサオン=パーカッションの音」です。下のyoutubeを見ていただければお分かりになると思いますが、パンディロやビリンバウといったブラジル固有のものに拘らず世界中のパーカッションを自由に取り上げメタ・フォルクローレ、メタ・カルチャーな世界観を作り上げていく非常に興味深いユニットです。だからといってフォルクローレやカルチャーの匂いがないのかと言えば全く持って逆で、現代的な音作り(各楽器の録音状態の良さ、分離や位相など)がアマゾンの奥地でその地の閉ざされた民俗音楽を聴いているような感覚に陥らせるような凄みを生み出しています。もはやフォルクローレとかルーツといった言葉自体が意味を失いつつある昨今において当然といえば当然なのかもしれませんが、やはりナナ・ヴァスのような天然モノ(失礼)とスザーノ、カイート・マルコンデスのような非常に現代的なバランス感覚の出会いが良い化学反応を起こしている例だと思います。DJでかけても非常に反応がイイ一枚。