● PALOMA DEL CERRO / GOZAR HASTA QUE ME AUSENTE
ACQUA / ARG / CD / 1,800円(税込)
アルゼンチンから若く才能あふれる女流フォルクローレ・エレクトロニカ・アーティスト、パロマ・デル・セロのデビュー・アルバムが登場。パーカッションやギターを中心とした生音楽器とキーボードやスクラッチ、打ち込みを駆使したエレクトロニクスによる多重録音やダブ処理で南米のフォルクローレを再解釈するというスタイルは、マリアナ・バラフやトノレックに近いスタイルですが、彼女の図抜けているところは、そのすがすがしいまでの軽やかさにあるでしょう。強烈にルーツがありながらも先述の2アーティストのように仰々しくならず、あっけらかんとした迷いのなさが、クラブ・ミュージックとしての強度を高めているのが非常に好印象。どちらが腰にくるダンス・ミュージックかと問われれば、間違いなくこのパロマに軍配が上がります。フォークトロニカ的に空間を漂う楽曲もあり、アルバム・トータルとして聴きたくなる全体の流れも見事。
● 助川太郎 / NOTURNO
ECLECTIC RECORDS / JPN / CD / 2,625円
ヴォーカリストEMIKOとのデュオ、メヲコラソンを中心とするブラジル音楽の演奏から、スガダイローのようなフリージャズ系ミュージシャンとの共演、更には口琴での即興など、多彩かつ精力的な活動をされているギタリスト助川太郎のアルバム。土井徳浩(cl)、安井源之新(per)とのトリオでエグベルト・ジスモンチの「Lôro」やエルメート・パスコアール「Chorinho pra ele」、ギンガの「Cheio de dedos」などの名曲から自身のオリジナルまでをも披露している。
というのは要約の要約で、彼の特異な音楽性は上述の幅広い活動からもわかるとおり、とても簡単には語れるものではありません。冒頭「Lôro」の演奏は象徴的。エフェクトがかったギターに無機的とすら評したくなる源之新さんのタイトなパンディロ、鳥の鳴き声といった効果音を交えながらも、あくまで音色の美しさにこだわったクラリネットとギターが奏でる名メロディ(ロロは本当にいい曲ですね)。様々な実験を行いながらも、卓越した演奏技術に支えられた音色の美しさとブラジル音楽らしいゆったりとしたグルーヴもある。モダンなセンスと実験感覚をバランス良く備えた、こういうギタリストはいまやブラジルにもなかなかいないんじゃないでしょうか?以前ここでも紹介したスワミ Jr.が好きなら是非聴いていただきたいアーティストです。
● GABRIEL MEDEIROS / DE NOITE O SOL ILUMINA
FONOMATIC / BRA / CD / 2,400円(税込)
このSSW、非常に気に入りました。古くはドリヴァル・カイミ、現在でも活躍するカエターノ・ヴェローゾ、シコ・ブアルキ、そして最近ではホドリゴ・マラニャオン、マルセロ・カメーロなど時代が移っても常に良質SSWを生み出す国ブラジル。今回紹介するガブリエル・メデイロスはその中でも至極王道を行く才能の持ち主です。
冒頭のゼ・ミゲル・ヴィズニッキ曲のシンプルなカバー、ヴィオラとギター、簡素なパーカッションで綴られるM2、ソフト・サンバに、程よいヴィオラの副旋律が施されたM3・・・。半数以上を占めるオリジナル曲も素晴らしいが、先述のゼ・ミゲル・ヴィズニッキ他、カバー曲のセレクトもルイス・タチ、オジアス・スタフーザなど有名無名どころ問わずツボを押さえたセレクトも良し。
シンプルなメロディに、寄せては返す波のように揺蕩う心地よいグルーヴ、そして温もりを保ちつつも個性と主張に溢れた歌達。ヴィニシウス・カントゥアリア、エドゥアルド・グヂンといったアーティストの名前を連想せざるを得ないですね。
● MORENO VELOSO / SOLO IN TOKYO
ハピネスレコード / JPN / CD / 2,500円(税込)
カエターノの息子でありブラジル新世代MPBの最も重要なキーパーソン、モレーノ・ヴェローゾ。「ミュージック・タイプ・ライター」から10年ぶりの2ndアルバムは2008年に行われたキャリア史上初のソロ・コンサートを収めたライブ盤です。ギター、そしてパンディロの弾き語りによる訥々とした演奏は、突出したグルーヴや音色の美しさで勝負しない一見地味なもの。しかし自らの内から泉のように湧き出る音楽を、湧き出るがままに飄々と表出する姿は、モレーノの稀有な音楽家としての唯一性を証明しています。着飾ることで常にポップ・スターであり続ける父カエターノとはある意味真逆の存在とも言えるでしょう。ドリヴァル・カイミ自身が海でありバイーアであったように、今のバイーアを体現しているモレーノの「ありのまま」のライブ。ブラジル音楽の神様の存在を身近に感じられる一枚です。
○ 10/15~ CONCERT - Moreno Veloso JAPAN TOUR