● ANTONIO LOUREIRO / SO
濱瀬さんの件の記事でも取り上げられていたミナスのSSW/マルチ・インスト奏者、アントニオ・ロウレイロの新作。高橋健太郎さんが彼の1stをMM誌の年間ベストに挙げたときは、タワレコとかでも随分と売れたようです。イエス、ジェネシスからブラッド・メルドーをはじめとする様々な音楽からの影響と、ブラジルの伝統的なスタイルの歌唱方法が共鳴しているというアントニオ・ロウレイロの音楽。なんとまだ26歳。曲も歌も良くてどの楽器も半端なく上手いって、恐るべき化け物ですよ。
featurring:
Tatiana Parra (voz), Pedro Durães (programações eletrônicas), Frederico Heliodoro (baixo elétrico), Rafael Martini (acordeon e vozes), Trigo Santana (contrabaixo), Alexandre Andrés (flautas), Daniel Santiago (violão), Sérgio Krakowski (pandeiro) e dos argentinos Santiago Segret (bandoneon), Andrés Beeuwsaert (piano).
● ANTONIO LOUREIRO / ANTONIO LOUREIRO
INDEPENDENTE / BRA / CD / 2,100円(税込)
作編曲にはじまりピアノ、ギター、ヴィブラフォン、マリンバ、ドラム、パーカッション、ヴォーカル、自然音を一人で演奏した1stはこちら。加えてリーダー作などはリリースしていないものの素晴らしい演奏技術を披露してくれるミナスの若手ミュージシャン達もサポート。曲によってクリストフ・シルヴァ、ファビアーナ・コッツアやアンドレ・メマーリらがゲスト参加しています。
● PEDRO MORAES / CLAROESCURO
ROB DIGITAL / BRA / CD / 2,500円(税込)
3年ぶりに聴いてあらためていいと思ったペドロ・モラエスの「CLAROESCURO」。2008年作に6曲の新録を加えて再発されました。先日のミュージック・マガジンで紹介した作品とはまた違う”ひねくれた”楽曲を書く人だが、好メロディのサンバ作曲家としても定評あり。鬼才にしてポップな新世代MPBの重要なSSWです。カエターノが先鋭性を失わずにいたらこうなっていたかも。
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ペドロ・モラエスは、2000年頃よりプロ・キャリアをスタートさせたサンバ・ギタリスト/シンガー。彼を中心とした若手サンバ・クアルテート「E COM ESSE QUE EU VOU」での活動で頭角を現し2007年にアルバムを発表。エルトン・メデイロス、ネルソン・サルジェント、デルシオ・カルヴァーリョ、カルリーニョス・ヴェルゲイロといったサンバ界の偉人との共演を果たし、そのクオリティは高く評価された。また、ソロ・アーティストとしては2008年に本作と同名の自主制作アルバム「Claroescuro」をリリース。日本にもごく僅かな数量が流通し、熱心なファンの間で支持された。
そして、本作「Claroescuro」。実は、現在では入手困難となっている2008年のソロ作全8曲に、2010年までに新たにレコーディングした6曲を加え、サンバ系の名レーベル、ROB DIGITAL社がリパッケージしたもの。カイーミ、ジョビン、シコ、ルイス・ゴンザーガなど、多岐にわたるブラジル音楽に感化されたオリジナル楽曲をはじめ、レノン=マッカートニのカバーにまで及ぶ見地も肝。
● ITO GORO / GLASHAUS
SPIRAL RECORDS / JPN / CD / 3,000円(税込)
「今の空気」を感じるアルバムだ。ナオミ&ゴローでの名声、そしてアンドレ・メマーリ、ジョルジ・エルデル、ジャキス・モレレンバウムらが参加、東京とリオ・デ・ジャネイロ録音。これらの要素ゆえブラジル音楽の範疇で語られることも多いであろうが一般的なブラジル音楽のギター作品=グルーヴ感溢れるアルバムとは全く違うのが本作の面白いところだ。例えばアンドレとのデュオM1は、音域の似たギターとピアノによるハーモニーに対し常に細心の注意を払いながらも、それぞれがソロを取り合っていく楽曲。シンプルだがとてもデュオとは思えない残響音までも計算しつくした録音の妙、音色の美しさは部屋の空気を一変させてしまう存在感がある。ジョルジ・エルデル(コントラバス)とのデュオで綴られるM2は更に面白い。M1と同じくテーマ部からそれぞれのソロへという展開は同じであるが、どちらかと言えば地味な役割を演じることの多いジョルジのコントラバスの方が明らかに饒舌なのだ。伊藤ゴロー氏のギターは、上質な絹のように繊細であるがミドル・テンポのフレーズは決して饒舌ではなく、まるで指揮者のように全体に配慮しながらも共演者に気持ちよく演奏させているようである。ではギター・ソロのM4はどうだろう?やはりここでも感じるのはギタリストとしてのジャズやロック的な我というよりも、ひとつひとつの音に対する音色/ハーモニー/残響音へのこだわりだ。帯にも「クラシック・ギターの演奏を軸としてのぞんだ」とある通り、もしもギターだけを聴くのであれば、これはクラシックですよと言ってしまったほうがいいのかもしれない。しかし本作が一筋縄ではいかないのは、抑制されたことで浮かび上がる微細な個性であったり、抑制が生み出す和への透徹した美意識(sense on "quiet"の言葉を借りれば「クワイエットな熱狂」)が反映された結果、普遍的かつ個人的なフィクションとして非常に完成されているからであろう。