● PELICO / QUE ISSO FIQUE ENTRE NOS
YBRAZIL / BRA / CD / 2,300円
サンパウロを中心に続々と面白いSSWが登場してきているので紹介したいと思います。シカゴ・アンダーグラウンドの分派であるサンパウロ・アンダーグラウンドのメンバーも参加。このあたりのシーンも一度現地でどっぷり見てみたいところです。
● JOANA DUAH / DA LICENCA
ROB DIGITAL / BRA / CD / 2,400円
マスカヴォ、バタコトへの在籍始め、NY活動時代はホメロ・ルバンボ、レオ・ガンデルマン、パウリーニョ・ブラガ、ベベウ・ジルベルト、フォホー・イン・ザ・ダークなどと共演。近年もセルジオ・サントス、アミルトン・ヂ・オランダのツアーへ同行するなど、経験豊富なキャリアを持つ女性シンガー、ジョアナ・ドゥアが待望のソロ・アルバムをリリースしたようです。
サンパウロの新興作曲家の中心人物と目されるダニ・グルジェルがカバーしたジアナ・ヴィスカルヂ&ミッヒ・フシチュカによる#1から惹き込まれます。サンバのリズムをベースにしたジャズ=エリス・レジーナが70年代以降に確立したいわば"王道"ともいえるMPBスタイルを踏襲する後進アーティストは多いですが、ここまでのクオリティで披露されると、う~ん、否でも応でも気分が高揚してしまいますね。ゴンザギーニャ曲#2、そして再びサンパウロの新興作曲家であるデボラ・グルジェル&ダニ・グルジェル&チアゴ・ハベーロによる共作曲、ドリ・カイミ&パウロ・セーザル・ピニェイロによる#4・・・。冒頭4曲だけ聴いても彼女の非凡なセンスがうかがい知れるでしょう。新旧作曲家を分け隔てなく取り上げ一つの作品とするセンスもさることながら、フェルナンド・メルリーノ(p)を中心に管楽器隊も入ったコンボによるジャズ・マナーなスウィングするバッキング。そして中低域を活かした存在感溢れる歌声を聴かせてくれるジョアナ。全てにおいて上質を極めるそのトラック群はMPB黄金期と聴き間違えるほど。ネルソン・アンジェロ&マルシオ・ボルジェス、シコ・ブアルキ、マルコス・ヴァーリ、ジャヴァンらの曲を取り上げる後半の展開も聴き進めていくほどに素晴らしいが、なかでもト・ブランヂレオーニ&ヴィニシウス・カルデローニをカバーした#9は白眉。ピアノ、ギターやクラリネットのアンサンブルが奏でるミドル・テンポのアンサンブルを纏い、どこか聖性すら漂うジョアナの歌声に惚れないものはいないでしょう。
● GABRIEL MEDEIROS / DE NOITE O SOL ILUMINA
FONOMATIC / BRA / CD / 2,400円(税込)
このSSW、非常に気に入りました。古くはドリヴァル・カイミ、現在でも活躍するカエターノ・ヴェローゾ、シコ・ブアルキ、そして最近ではホドリゴ・マラニャオン、マルセロ・カメーロなど時代が移っても常に良質SSWを生み出す国ブラジル。今回紹介するガブリエル・メデイロスはその中でも至極王道を行く才能の持ち主です。
冒頭のゼ・ミゲル・ヴィズニッキ曲のシンプルなカバー、ヴィオラとギター、簡素なパーカッションで綴られるM2、ソフト・サンバに、程よいヴィオラの副旋律が施されたM3・・・。半数以上を占めるオリジナル曲も素晴らしいが、先述のゼ・ミゲル・ヴィズニッキ他、カバー曲のセレクトもルイス・タチ、オジアス・スタフーザなど有名無名どころ問わずツボを押さえたセレクトも良し。
シンプルなメロディに、寄せては返す波のように揺蕩う心地よいグルーヴ、そして温もりを保ちつつも個性と主張に溢れた歌達。ヴィニシウス・カントゥアリア、エドゥアルド・グヂンといったアーティストの名前を連想せざるを得ないですね。
● MORENO VELOSO / SOLO IN TOKYO
ハピネスレコード / JPN / CD / 2,500円(税込)
カエターノの息子でありブラジル新世代MPBの最も重要なキーパーソン、モレーノ・ヴェローゾ。「ミュージック・タイプ・ライター」から10年ぶりの2ndアルバムは2008年に行われたキャリア史上初のソロ・コンサートを収めたライブ盤です。ギター、そしてパンディロの弾き語りによる訥々とした演奏は、突出したグルーヴや音色の美しさで勝負しない一見地味なもの。しかし自らの内から泉のように湧き出る音楽を、湧き出るがままに飄々と表出する姿は、モレーノの稀有な音楽家としての唯一性を証明しています。着飾ることで常にポップ・スターであり続ける父カエターノとはある意味真逆の存在とも言えるでしょう。ドリヴァル・カイミ自身が海でありバイーアであったように、今のバイーアを体現しているモレーノの「ありのまま」のライブ。ブラジル音楽の神様の存在を身近に感じられる一枚です。
○ 10/15~ CONCERT - Moreno Veloso JAPAN TOUR