■ IRENE BERTACHINI / IRENE PRETA, IRENE BOA
ミナスの新世代からまたまた新たな才能=Irene Bertachini(イレーニ・ベルタチーニ)。室内楽のような編成をバックにしなやかな歌声でつづる珠玉の楽曲群はネオ・フォルクローレにも通ずるサウンド。クリストフ・シルヴァ、ハファエル・マルチニ、フェリペ・ジョゼ(グルーポ・ハモ)他、ミナス新世代の才能あふれるミュージシャンもこぞって参加。セルジオ・サントスも絶賛する本作は、アレシャンドリ・アンドレス、クリストフ・シルヴァと並びミナス新世代の充実を世界に知らしめる大傑作である!
1986年生まれ、現在27歳はアントニオ・ロウレイロと同い年。ミナス・ジェライス州の州都ベロ・オリゾンチ生まれのイレーニ・ベルタチーニは歌手、作曲家、器楽奏者として現代のポップ・カルチャーと伝統文化の融合を音楽で表現する稀有な存在だ。すでにUrucum na Caraというグループでデビューしているが、ソロとしては本作「Irene Preta, Irene Boa」が1stアルバムとなる。
タイトルはブラジル北東部ペルナンブーコ州出身の著名な詩人マノエル・バンデイラが綴った「Irene no Ceu(空のイレーニ)」からの引用。海から空へ、そして到着点には歌があった、という意味を込めてこのタイトルにしたという。
短いインストゥルメンタルである冒頭曲は子供が演奏するかのように素朴なギターと口笛、スティール・パンからスタート。次第にフルート、チェロ、ピアノなどの高度な楽器が加わっていく。なんとも美しいアンサンブルに聞き惚れているうちに、アルバムは2曲目へ。丁寧にコントロールされつつもどこか母性をたたえたイレーニのヴォーカルが、まるで一つの楽器のように、とても自然に調和してゆく。1曲目はフェリペ・ジョゼ(グルーポ・ハモ)、2曲目はグスタヴォ・アマラル(アレシャンドリ・アンドレスとも演奏活動をともにする次世代SSW)という才人がアレンジを施していることも、この驚くべき完成度の要因だろう。カルロス・アギーレの1stアルバム『クレーマ』にも通ずる素朴と洗練の素晴らしい融合を、本作にも見て取れる。セルジオ・サントス&パウロ・セザル・ピニェイロ作詞作曲による4曲目ではハファエル・マルチニがアレンジを担当。ピアノ、パン、マリンバ、グロッケンシュピールなど複数の打楽器を中心とした疾走感あふれる演奏を聴かせる。アレシャンドリ・アンドレス&ベルナルド・マラニャオン作詞作曲の#6ではウアクチの創作楽器"プラネタリオ"が使用されている。不思議な音色のプラネタリオとイレーニの歌声、マリンバ、チェロ、アコーディオンらとのアンサンブルが聴き所だ。クラシック~ジャズ系ピアニスト=ホドリゴ・ラナがリードしつつマラカトゥにリズム・チェンジしつていく#8、一転、ヴァイオリンとパンを中心とした繊細なアンサンブルを聴かせる#9、クリストフ・シルヴァとのコーラスやエレクトリック・ベース、トロンボーンを用いたアンサンブルが特徴的な#10、ラジオ音のコラージュ、瓶を用いたアンサンブルなど適度に覗かせるエクスペリメンタルな姿勢も好感な#11・・・。シンプルに歌を聴かせる#12,13のラスト2曲まで、ひとつのアルバムとして透徹した世界観が貫かれている。
自由かつユニーク、聴くほどに発見のあるような実験精神と、音楽的な美しさがバランスよく調和したイレーニのデビュー作。ミナス新世代の充実を世界に知らしめる大傑作として、アレシャンドリ・アンドレス、クリストフ・シルヴァと並び人々に記憶される一枚となるだろう。
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