● ORQUESTA A SAIDERA / SOTAQUE
INDEPENDIENTE / ARG / CD / 1,800円(税込)
ブラジルのビッグバンド・スタイルを踏襲したアルゼンチンの楽団「オルケスタ・ア・サイデラ」のデビュー作。
本作の主役はクラリネット奏者でありアレンジ、ディレクションを担当するエミリアーノ・アルヴァレス。本場ブラジルにて音楽の経験を積んだ彼は、ブラジルの伝統ともいえる管楽器主体の「Orquestas a base de Sopros」スタイルのオーケストラからインスパイアを受けつつ、本作でもアレンジに参加しているジョヴィーノ・サントス・ネト、レア・フレイリといったコンテンポラリー・ジャズ的なセンスも兼ね備える逸材である。そんな彼がアルゼンチンに戻り結成したのが、この「オルケスタ・ア・サイデラ」だ。アルゼンチンでは数多くのブラジル音楽系フェス(アグスティン・ペレイラ・ルセーナやベト・カレッティを筆頭にアルゼンチンでもボサノヴァを中心としたブラジルの音楽は人気である)に出演を重ねると同時に、フアン・キンテーロらのライブ盤リリースでも知られるカフェ・ヴィニーロ、更にはブラジル大使館でもライブを行うなど、かなりの人気を博している彼ら。サンバの聖地"ラパ"を代表するアーティスト、ペドロ・ミランダとの共演プロジェクトも予定されており、アルゼンチン&ブラジル両国で今後ますますの活躍が期待されている。
サウンドの特徴となるのはガフィエラやサンバ・ホッキ(サンバ・ロック)、更にはマシーシやフレーヴォ、ショーロといったブラジルに存在する多彩なリズムを演奏する伝統的なスタイル。20人近い人数でありながら、一糸乱れぬホーン&リズム・セクションのコンビネーションによる切れ味鋭いグルーヴは、有無を言わさぬ高揚感をもたらすこと間違いなし!"ナ・バイシャ・ド・サパテイロ" "ラデイラ・ダ・プレギッサ"、"アザ・ブランカ"、"アキ・オー"といったブラジル音楽ファンにお馴染みのレパートリーも嬉しすぎるチョイスである。
またよくよく聴きこむと別の魅力も浮き上がってくる。バンダ・エルメチカやノラ・サルモリア、メリーナ・モギレフスキー(時折この楽団にも参加しているようだ)といったエルメートやジスモンチからの影響を強く受けているアーティストの多いアルゼンチンだが、本作でもリーダー=エミリアーノのオリジナル"エルメチコ"といった楽曲を収録するなど、単なるコピーではない、彼らならではの音楽的アイデンティティーを感じられるのも本作の特徴だ。その象徴ともえいるトラックがレア・フレイリ作"ブリンカンド・コン・テオ"であろう。アンドレス・ベエウサエルト&タチアーナ・パーハ『アキー』にも収録されていたこの楽曲を選ぶあたりに、彼らの「今」なセンス=サンパウロ~ミナスからの国境を超えた音楽的トレンドからの影響を感じることができるのも非常に興味深い。
COMMENT