● MARIANO MAROVATTO / AQUELE AMOR NEM ME FALE
BOLACHA DISCOS / BRA / CD-R / 700円(税込)
マルセロ・カメーロ級の逸材じゃないでしょうか?個人的にはマルセロよりサウンドは好みです。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの3枚目に似た、アンニュイなエロさ、誘惑。それにしても今年はドメニコのソロ、モレーノのライブ盤を筆頭に、こちらで紹介してきたペーリコ、ガブリエル・メデイロスなど、ブラジルのSSWものが充実してます。それにしてもボラーシャはなぜにCD-Rなのか!
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バックにペドロ・サー(g),マルセロ・カラード(ds),ヒカルド・ヂアス・ゴメス(b)のバンダ・セーを迎えている点に目がいきがちであるが、本作を聴けば、主役であるマリアーノ・マロヴァットの持つ稀有な才能に驚くであろう。カエターノ・ヴェローゾからチタンス、アザ・ヂ・アギア、そしてマルセロ・カメーロまで、ブラジル・ロックの系譜を感じさせる毒気を確実に孕んだマリアーノの楽曲群は、まさに今のブラジルらしさに溢れている。
スネアとハイハットの刻むリズムに複数のギター、女性ヴォーカルによるコーラスがアンニュイな気分をもたらす#1,2の序盤に始まり、潮騒の音がまるで夜のビーチにいるかのような気分にさせてくれる#3,4、フォーキーな語り口で愛を歌う#5・・・拍子抜けするほどにシンプルな骨組みだが、さりげなくサイド・ギターやコーラスなどが配され、まるでオーケストラのようにマリアーノの歌声を支えていく。マリアーノのシンプルな言葉で深遠な言葉を描いていく南米SSWの王道ともいえる楽曲、そして楽曲に立体的な陰影を与えるダヴィ&モレーノによるサウンド作りはさすがといったところだ。そんなアイデアがボサノヴァと結びついてしまったかのような#6は圧巻であろう。お皿とナイフでリズムを刻むブラジル特有のパーカッションを下地に、ボサノヴァ・ギターのバチーダ、フリーキーともいえるエレキ・ヴァイオリンが絡む。とんでもないことを何処吹く風でこなしてしまうマリアーノのアイデアには、カエターノのような確信犯的なトリックスターとしての資質を強く感じずにはいられない。再びシンプルなボサ・ノヴァを披露する#7を挟み、チープなエレクトロ・ニューウェーブ#8になると、その大胆不敵さにはもはや笑ってしまうしかない。ラストは詩人アリス・サンタナに捧げられた子守唄のような弾き語りも心地よい。
まるで70年代のカエターノ・ヴェローゾのような実験性とサイケデリアを、音響派以降の音空間でフォーキーに歌い上げた傑作とでもいえばいいのだろうか。聴けば聴くほどに違う表情を見せてくれる本作を聴いていると、もしかしたら10年後、20年後に今とはまた違った文脈で聴かれ続けているのかも、といった想像をせずにはいられない。
"Tanto" Mariano Marovatto
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